「好きだ…カイジさん、あんただけが…」
部屋の隅で、あの日あの人に告げた言葉を呟いた。
独り誰もいない部屋に響いた言葉は虚しく漂って消えた。
少なくともあの日だけは、この言葉があの人の耳へ届いていた。
ただ、その言葉があの人の心に届くことはなくて、
次の日からあの人はバイトにも来なくなって
連絡も途絶えた。
俺から逃げるようにして消えていった。何も残さず。
ただ俺に痛みだけ残して。
バイトはすぐに辞めた。
あの人が居ないそこには意味が無く、ただ続けていても虚しさが募るだけだった。
あの人が居なくなって
何を食べても味がしなくて
何を見ても色がなくて
何をしても笑えなくなった
膝を抱いた腕がカタカタと震える。
あの仏頂面が好きだった。
あの泣き顔が好きだった。
あの笑顔が好きだった。
あの人を思い出すだけで、胸は締め付けられるように痛くなる。
涙は枯れてもまだ頬を伝った。
自分はこんなに弱い人間だっただろうか。
「カイジ、さんっ…」
言葉にするとどうしようもなく苦しさが増す。
呼吸の仕方が分からなくなる。心臓が痛くなる。
胸のあたりをギュッと掴んでみても一向に過呼吸が納まらない。
「嫌、だっ……もう、たすけてっ…」
会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい
あいたい。
俺は狂っているのか。
涙でぐしゃぐしゃになった顔を膝に擦りつけて、嗚咽とも呻きともとれない掠れた音を喉が鳴らしていた。
「会いた、い……カイジ…さん、に…会いたいっ…!」
あんたに会えないなら。
あんたの笑顔が見れないなら。
あんたの声が聞けないなら。
すべてが無意味で
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